患者様目線での医療
第6回 開業医が認知症診療や在宅ケアに取り組む上での工夫
鈴木内科医院 副院長 鈴木 央 先生
東京都大田区で、かかりつけ医として認知症診療や在宅医療に取り組んでいます。かかりつけ医による「物忘れ外来」と連携、また在宅医療でポイントになる患者様との関係づくりにはコツがあると考えています。
かかりつけ医のおこなう「物忘れ外来」
当院では物忘れ外来をスタートして3年目に入りました。対象となる方は、認知症の患者様やそのご家族です。BPSDを抱える患者様やご家族も多くいらっしゃいます。
物忘れや認知症のご相談は以前から対応していましたが、本格的に物忘れ外来を始めたきっかけは、大森医師会が「物忘れ外来システム」を開始したことでした。
物忘れ外来とはいっても、外来の曜日や時間を特に決めているわけではなく、物忘れや認知症について相談したいという患者様やご家族の来院があれば随時、物忘れ外来として診療しています。1週間に20名ほども患者様が来院されております。
物忘れ外来における具体的な事例を紹介します。高血圧で当院をかかりつけにされていた男性のご家族から「最近物忘れがひどいのです」と相談がありました。そこで、専門医療機関に紹介し、MRIやSPECT検査の結果、認知症と確定診断されました。その後、当院で認知症治療薬を処方し、症状は落ち着いています。ご家族にも定期的にお目にかかっており、BPSDが出ていないかを随時確認しているので、ご家族にも安心感を持っていただいているようです。
また、ある独居の患者様の事例では、生活を支えてくれているヘルパーに暴言を吐くという相談がありました。この方は、こちらがニコニコ対応するととても喜んでくださいましたので、ヘルパーの方に笑顔で対応するようにお話ししました。その結果、徐々にですがBPSDは改善されたということもあります。
連携パスの活用とかかりつけ医の役割
大田区には、3つの医師会で作成した「認知症連携パス」があります。認知症ではないかと疑いがある場合、パスの項目を2~3ヵ所チェックし専門医療機関に紹介します。認知症の診断は専門医療機関の専門医にお願いし、確定診断がついた後、治療・ケアはかかりつけの開業医が担当します。専門医・開業医が役割分担をすることにより、早期からの治療、家族へのよりよいケアが可能となるため、認知症連携パスができて大変助かっています。
また最近では、アルツハイマー型にせよどの種類の認知症にせよ、比較的初期の段階で診断されることが多くなってきました。しかし、診断がつく事によって、ご家族は大きなストレスを抱え込みます。ご家族にとっては、長い行き先の見えない旅路を共に歩むかかりつけ医がいることが、大きな支援になると感じています。
かかりつけ医として20年高血圧の診療をしてきた男性の患者様が、認知症を発症された事例があります。動けなくなり、往診を続けていましたが、徐々に嚥下が難しくなり、摂食嚥下リハの歯科医にも入ってもらいましたが、食べられない状態でした。そして最終的には入院し、病院で亡くなりました。最期は病院でしたが、高血圧診療の頃から長い経過の中で最期まで寄り添うことができました。この患者様のご家族は、現在も当院をかかりつけにしてくださっており、当時の事を伺うと、「大変だったけれど、かかりつけ医の先生に常に相談できたので良かった。先生に自宅でケアカンファレンスなどを開いて頂いて、色々な職種の方が関わっていることがよくわかりました。それが安心に繋がりました」と、話してくださいました。認知症連携の中でかかりつけ医は、薬物療法だけではなく、ご家族のケアというのが大きな役割を担っているのだと感じています。
ケアの対象は患者様だけではない
認知症診療では、患者様と共に、ご家族もケアの対象であると実感することも少なくありません。
1つの事例ですが、BPSDがなかなか治まらず、夜中に起きてしまうため物忘れ外来にいらっしゃった患者様がおられました。この方は腹部に大きな動脈瘤があり、最終的には動脈瘤破裂で急変し、病院に搬送後、亡くなられました。私はBPSDも改善せず、このような経過をたどられた患者様でしたので、ご家族にお叱りを受けると思っていました。
しかし、ご家族にお目にかかり、最初に出てきた言葉は「先生、ありがとうございました」でした。ご家族から「認知症で困り果てているのを誰にも理解してもらえなかったのですが、かかりつけ医の先生に理解してもらって、一緒に努力してもらったのがありがたかったです。それが嬉しかったですし、思い残す事はありません」と話していただきました。
在宅ケアや認知症診療を通して感じるのは、それぞれのご家族に物語があるということです。例えば、患者様が認知症になってしまったのはご主人が亡くなったストレスからだとご家族は思っている事もあります。その話を聴いても治療やケアの内容に変化があるわけではないですが、それでもご家族の物語に耳を傾けることが重要です。なぜなら「かかりつけ医の先生はわかってくれる」という信頼が、ご家族の満足に繋がるからです。
家族へのケアのポイント
患者様やご家族の話を上手に聴くコツはあるのでしょうか。私は、話を聴きながら、それに対して丁寧にあいづちを打ち、共感や理解の気持ちを伝える事が大切だと思っています。ただ聴くのではなく、「聴いていますよ」という共感を伝えられると、更に満足度が高まるように思います。ご家族の物語に共感してさしあげるのです。
また認知症のケア、介護には本当に時間と心を費やします。しかし、ご家族の事情もあり、ご家族の対応によっては悪循環を招いてしまうことがあります。そこで私はいつもご家族に「できることをできるだけ」という言葉を合言葉にしていただいています。できないことを無理にしようとするのではなく、できることをできるだけやっていただき、できないことはケアマネージャーやかかりつけ医にご相談いただくと負担が軽くなります。そして、その軽くなった負担がケアに反映され、患者様の状態がよくなるというケースも少なくありません。
ただし、認知症診療は、患者様やご家族の話に時間がかかり、他の患者様をお待たせしてしまい、開業医では折り合いが難しいという悩みもあるようです。
当院では、週1回予約診療の枠を設けています。時間がかかりそうな患者様やご家族はその枠で、30~40分かけてお話を伺います。また、診察前に看護師が色々お話を伺っており、話を要約してくれます。医療者にじっくり話ができるルートが複数あるので、安心して頂いているように思います。
医師間、ケアスタッフとの地域連携のために
在宅医療やケアに欠かせない地域連携の構築に、二の足を踏んでしまう開業医も少なくないかもしれません。
認知症診療の地域連携構築の第一歩としては、開業医などかかりつけ医と認知症の専門医との橋渡しが重要だと思います。
私たちの大田区でも、認知症を診療する病院が1ヵ所しかなかった時期がありました。当時は患者様が集中し、診療が3~4ヵ月待ちになっていました。そこで医師会が議題に挙げ、話し合いを持ったところ、複数の病院が認知症診療の名乗りをあげてくれました。認知症を診てくれる病院が増えたのです。医師の地域連携構築には、まず医師間で相談する機会を持つことが重要です。
医師間の連携は比較的進めやすいと思いますが、ケアとの連携は開業医にとって苦手分野ではないでしょうか。開業医は診療所から出ないこと多いのですが、患者様の自宅を訪問してみると分かることがあります。部屋が散らかっているなら、何か入れられるサービスやケアがないか、ケアマネジャーに相談するきっかけになるかもしれません。
在宅医療のケアカンファレンスが、患者様の自宅や在宅療養支援診療所で実施されています。カンファレンスのメンバーに相談し、利用者の許可を得ることができたら、ぜひ顔を出してみていただきたいと思います。ケアのスタッフと顔見知りになりますし、患者様の在宅での状況が非常に良くわかります。ご自宅での様子や、ケアの組み合わせの実際などの情報を積み重ねていけば、ケアとの連携に踏み出しやすいのではないでしょうか。
略 歴・プロフィール
鈴木 央(すずき ひろし)
略歴
- 1987年 昭和大学医学部卒
- 1999年より 鈴木内科医院 副院長
鈴木内科医院院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス、ターミナル・ケアの概念を引き継ぎプライマリ・ケア、特に在宅緩和ケアを専門としている。
東京医科歯科大学臨床教授
東邦大学員外講師
昭和大学医学部客員講師
著作(共著)
- 「在宅医療テキスト」 勇美記念財団編
- 「在宅ケア辞典」 日本在宅ケア学会
- 「がんの在宅医療」 中外医学社
- 「在宅医学」 日本在宅医学会編 メディカルビュー社
- 「明日の在宅医療」 中央法規
- 「在宅で褥瘡に出会ったら」 南山堂(編著)
学会活動等
- 日本プライマリ・ケア学会 理事
- 日本在宅医学会 幹事
- 全国在宅療養支援診療所連絡会 副会長
- 東京プライマリ・ケア研究会 副会長
- 城南緩和ケア研究会 世話人
- 大田区在宅医療連携研究 会会長
- 大森医師会 理事(学術担当)




